日本では決算月を3月末に設定する企業が多い一方、タイでは12月末に設定する企業が多いです。決算後はタイの公認会計士による法定監査、定時株主総会、商務省事業開発局、中央銀行および歳入局への決算申告を行います。
決算後から税務申告期限までの期間が150日間のタイは、2ヵ月の日本に比べればスケジュールに余裕があります。一方で、BOI(タイ投資委員会)認可を取得している企業の場合、BOIの恩典のひとつでもある法人税の免除恩典を受けるためには、決算日から120日以内にBOIへの届出が必要である等、法的に行う必要のあるプロセスが求められます。
今回は決算期に留意するべきポイントについて解説していきます。
日本本社や株主への決算報告日程等も含め、タイ側の法定期日を超えない範囲で全体のタイムスケジュールを組む必要があります。タイで一般的な12月決算のスケジュールは下記の通りです。
1月 前年12月分の会計処理を行い、年次財務諸表を作成
2月 1月分の会計処理の際、12月決算に取り込む必要のある未払経費や未着品、積送品等を処理
3月 公認会計士による監査を受け、監査報告書のドラフト版を受領。決算修正内容の確認後、監査報告ドラフト版にサインバック。その後、最終版の監査報告書を受領
4月 定款に規定がある場合地方紙での新聞公告の掲載。また株主への招集通知送付後、決算日から4ヵ月以内に株主総会を開催
5月 商務省へ株主名簿を届出、商務省事業開発局(株主総会後30日以内)、中央銀行、歳入局(決算後150日以内)へ決算報告
※歳入局へ電子申告を行う場合延長恩典有り
すべての法人が監査を受ける必要があるタイでは、自社側の準備が整っても、監査を受けるのに順番待ちとなるといった問題が発生することも少なくありません。外部会計事務所へ会計処理のアウトソースを行っている場合や、事前の公認監査のスケジュール確保が難しい場合は注意が必要です。
(1)損金不算入経費の内容確認
法人税の計算を行う際は、会計上の当期利益から税務上の調整を行い、課税所得を算出します。会計上は費用に認められるが、税務上は費用として認められないものを「損金不算入経費」といいます。タイの財務諸表では一般的に、「Add Back Expense」や「Un-deduction Expense」等と表記され、税務上の申告調整を行うために、ひとつの項目に集めて仕訳処理されることが多いです。
この科目は最終的に課税対象取引となるため、内容を確認して本当に損金不算入処理とすべきか、あるいは一時的な理由で損金不算入処理をしているが、一定要件を満たすことで損金処理すべきかの判断が必要になります。タイの税法上、損金不算入経費となる内容は下記の通りです。
【タイ税法上、損益不算入経費となる内容】
- 資本金の0.3%か総収入の0.3%の、いずれか大きいほうの額を超える交際費
- 領収書のない取引や、発行者が不明で金銭の受取者を証明できない支払
- 貸倒引当金退職給付引当金等、見積もり計上された費用
- 3万6千バーツ/月を超える乗用車のリース料
- 100万バーツを超える減価償却費
- ほかの会計期間に計上すべき費用
- 減価償却限度超過額(加速償却)
領収書が一時的に揃っていないといった理由であれば、税法上認められる要件の書類をしっかりと揃えることで(正式なTax Invoiceを揃える、書類記載の不備を修正する等)、損金算入経費に振り替えることができます。また、締め日の関係等で数ヵ月遅れで届く請求書への支払や、土地建物税の関係で不動産オーナーから事後的に請求される取引等は12月決算のタイミングでは計上漏れとなり、翌期で損金不算入経費となってしまいやすいため、注意が必要です。
(2)長期滞留取引の確認
たとえば外部の会計事務所を利用した際や、タイ人の経理担当者が代わった際に、細かい引継ぎが行われず帳簿上長期間残ってしまっている計上があると、決算のタイミングで内容の精査が必要になってきます。よく目にする内容は下記の通りです。
- 長期未回収となっている売掛金や、未収金で貸し倒れとなるリスクがあるもの
- 以前の駐在者の住宅保証金で残っている残高
- 立替金や仮払金の内容で長期間精算ができていないもの
(3)中間申告で行った予想利益と実際利益の確認
法人税の中間申告で申告した予想利益と、本決算時の実際利益が、法人税の中間申告時(P.N.D 51)の年予想利益の25%を超えて多かった時には、税法上の合理的な理由がある場合を除いて、中間納税不足額に対して20%の延滞税が課されます。これを回避するには、中間申告の内容を修正申告する必要があります。
経理業務はローカルスタッフが中心となり作業を行う場合が多いため、日本人管理者の意図する会計処理にならなかったり、タイ語や英語以外の書類が適切に処理されないといったケースも発生し得ます。一度当局に決算申告をしてしまうと、過去の内容の修正は簡単にはできません。タイは日本に比べると、申告期限までのスケジュールに時間的な余裕があります。経理担当者に任せきりにせず、マネジメントサイドも決算内容をしっかり確認することで、理解の相違による計上間違いや不要な延滞税等の税務リスクを軽減することが可能になります。
その他、法人税関係については、下記記事をご参照ください。
タイ税金を網羅的に把握▶『タイ税金のすべて~ビジネスを行う際に知っておくべき税金~』
法人税の基礎知識▶『タイでの法人税の基礎知識』
損金不算入経費▶『タイでの節税対策~費用、損金とは?損金不算入経費削減で節税効果~』
申告書の見方▶『タイ法人税確定申告書(PND50)の見方』