タイ税金のすべて~ビジネスを行う際に知っておくべき税金~

タイに新しく赴任されてきた方や、タイの税務の概要について知りたい方向けに、主な税務申告書の内容や申告期限等、最低限押さえておくべきポイントについて解説します。


目次

  • 用語の簡単解説
  • 各申告書の申告・納税期限
  • 各申告書の概要と主な税率
  • 罰則規定
  • 還付請求と税務調査

用語の簡単解説

WHT/P.N.D. (ภ.ง.ด.)

WHT(Withholding Tax)は源泉徴収税のことで、P.N.D.(ポーゴードー/ภ.ง.ด.)と呼ばれる申告書で申告・納税を行います。個人への支払いに対する源泉徴収税はP.N.D.1やP.N.D.3、法人への支払いに対する源泉徴収税はP.N.D.53、法人の海外送金に対する源泉徴収税はP.N.D.54の申告書を使用します。

VAT/P.P. (ภ.พ.)

VAT(Value Added Tax)とは付加価値税のことで、P.P.(ポポー/ภ.พ.)と呼ばれる申告書で申告・納税を行います。タイ国内取引の場合はP.P.30、タイ国外サービスに対する支払の場合はP.P.36と呼ばれる申告書を使用します。VATの課税事業者登録をしている企業は、課税仕入・課税売上取引がなくても毎月の申告が必要です。商品やサービスを売り上げた際に顧客から預かるVATを売上VAT(Output VAT)、商品やサービスを購入した際に支払うVATを仕入VAT(Input  VAT)と呼びます。毎月の売上VATから仕入VAを控除した額を納税します。

50TW (50ทวิ)

50TW(50ทวิ/タウィ)は源泉徴収票を意味します。英語でWithholding Tax Certificateと呼ばれることもあります。4部1セットで発行し、2部は社内で保管、残りの2部は支払い先(給与所得の場合は従業員)に渡します。

e-Filing

e-Filingとは税務申告書の電子申告を意味します。電子申告の場合、従来の紙申告よりも申告・納税期限が8日延長されます。


各申告書の申告・納税期限

翌月7日までに申告・納税が必要なもの

  • P.N.D.1(個人の給与所得に係る源泉徴収税)
  • P.N.D.3(個人事業主への源泉徴収税)
  • P.N.D.53(タイ国内法人への源泉徴収税)
  • P.N.D.54(タイ国外法人への源泉徴収税)
  • P.P.36(タイ国外法人へのサービスに対する支払いに係る付加価値税)

ただし、e-Filingの場合は申告・納税期限が15日まで延長されます。

翌月15日までに申告・納税が必要なもの

  • P.P.30(付加価値税)

ただし、e-Filingの場合は申告・納税期限が23日まで延長されます。

半期決算日から2カ月以内に申告・納税が必要なもの

  • P.N.D.51(法人所得の中間申告)

暦年を会計年度として採用している企業の場合、半期決算の申告・納税期限は8月末までです。

ただし、e-Filingの場合は申告・納税期限が半期決算日以降2カ月8日まで延長されます。

決算日以降150日以内に申告・納税が必要なもの

  • P.N.D.50(法人所得の確定申告)

暦年を会計年度として採用している企業の場合、決算の申告・納税期限は5月末までです。

ただし、e-Filingの場合は申告・納税期限が会計年度終了後158日まで延長されます。

翌年3月末までに申告・納税が必要なもの

  • P.N.D.91(個人所得の確定申告)

ただし、e-Filingの場合は申告・納税期限が4月8日まで延長されます。

 

申告・納税期限が土日祝日と重なる場合は、土日祝日明けの最初の平日が申告・納税期限となります。例えば、P.P.30の申告期限である15日が土曜日の場合、週明けの17日月曜日が申告・納税期限となります。
VATの申告書はP.P.30とP.P.36の二種類ありますが、申告・納税期限が異なるため注意が必要です。

各申告書の概要と主な税率

P.N.D.1とP.N.D.91

個人の給与所得は日本同様累進課税で税額が算出されます。年間の推定課税所得から諸控除を差し引いた後、累進課税で確定申告時における納税額を算出し、それを月数で除した金額を雇用主が源泉徴収、納税するのがP.N.D.1です。P.N.D.1で毎月納税された金額を基にP.N.D.91で確定申告を行います。

累進課税率は以下の通りです。

P.N.D.3とP.N.D.53

受領した請求書の記載内容を基に源泉徴収票を作成し、一カ月分の源泉徴収票の内容をまとめ、翌月申告・納税します。この際支払相手が企業である場合はP.N.D.53、個人である場合はP.N.D.3を使用して申告します。

主な支払項目と税率区分は以下の通りです。

P.N.D.54

タイ国内で事業を営まない法人への海外送金に対する源泉徴収税はP.N.D.54という申告書で申告・納税を行います。

前述のP.N.D.3やP.N.D.53とは異なり、P.N.D.54は国外法人の社名や住所、支払内容等の詳細を記載する必要があるため、取引ごとに申告書を作成します。

主な税率区分は下記の通りです。

P.P.30とP.P.36

VATの標準税率は10%ですが、勅令により現在は7%に引き下げられています。

課税取引区分と主な対象項目は以下の通りです。

課税取引

  • タイ国内での物品販売
  • タイ国内でのサービス提供
  • 物品およびサービスの輸入

0%課税取引

  • 物品の輸出
  • タイ国内で提供され、タイ国外において利用されるサービスの提供
  • 航空機または船舶による国際輸送
  • 保税倉庫間および輸出加工区間の取引

非課税取引

  • 農産物、動物、食肉、飼料、畜産物、畜産用の薬品及び化学製品の販売
  • 新聞、雑誌、教科書の販売
  • 教育機関のサービス
  • 法定監査、法定弁護に関するサービス
  • 医療機関のサービス
  • 国内運輸業務
  • 国際運輸のサービス(ただし航空機または船舶によるものを除く)
  • 不動産賃貸業
  • 宝くじ、切手、印紙の販売
0%課税取引は売上VATを0としますが、対応する仕入VATについては還付請求ができます。一方、非課税取引は売上VATは非課税ですが、対応する仕入VATの還付はできません。

P.N.D.51とP.N.D.50

現行の法人税率は原則20%ですが、払込資本金が500万THB以下かつ課税年度内の収益が3,000万THB以下である中小企業(SME)には累進課税が適用されます。

累進税率は下記の通りです。


罰則規定

税務申告を前述の申告期日までに行わなかった場合や申告内容に誤りがあった場合には、追加で申告を行い差額を申告・納付します。申告漏れや不正確な申告に関しては本税に加えて罰金、延滞税、加算税などが課されます。

 


還付請求と税務調査

源泉徴収税

法人税確定申告(P.N.D.50)の際に源泉徴収税額を法人税額に充当しますが、源泉徴収税額が法人税額を上回る場合には還付申請を行うことが可能です。源泉徴収税は翌期以降に持ち越すことはできず、還付請求するか費用化するか(ただし損金不算入)の二択となります。還付請求する場合は期限は3年です。ただし、タイでは還付請求を行うと必ず税務調査が実施されるという点に注意が必要です。

 

付加価値税(VAT)

VATは毎月の売上VATから仕入VAを控除した額を納税します。仕入VATが売上VATを上回った場合、上回った仕入VATの還付請求を行うか、翌月以降に持ち越し売上VATと相殺することが可能です。源泉徴収税同様に還付請求を行うと税務調査が入るため、一般的には翌月に持ち越す方法を選択します。

 

いかがでしょうか。タイ税金は意外と高税率で、かつ、種類も多いので実際の運用は専門家に確認しながら1つずつ進めてもらえればと思います。

また、下記に個々の税金の個別ページも作成しています。併せてご確認頂ければ幸いです。

 

【税金コラム】

● タイでの税務申告書の種類と申告期限(詳細)

● タイでの法人税の基礎知識

● タイでの所得税の基礎知識

● タイでの源泉税~法人からの支払いに係る源泉税~

● タイでのVAT(付加価値税)の基礎知識

● タイでの節税対策~費用、損金とは?損金不算入経費削減で節税効果~

● タイの税務申告に関する罰金