皆様こんにちは。JGAの坂田です。
以前のコラムで、「不正対応のための月次決算モニタリング」についてお話ししました。月次決算モニタリングにおいて、日本親会社の適正な関与があることによって不正リスクを逓減することができると記載しましたが、月次決算を早期化することも不正リスクへのアプローチとして有効です。
今回のコラムでは、海外子会社の月次決算早期化実務について、具体的な内容を含んで執筆します。最後までお読みいただければ幸いです。
さて、海外子会社の月次決算早期化の対象は2つあります。まずはそこから話をスタートしましょう!
【月次決算早期化の対象】
①ローカル月次決算業務
②親会社への連結パッケージ作成業務
ローカル月次決算業務の決算早期化を考えるにあたっては、どこに業務上のボトルネックがあるかを確認することが重要であり、そのためにローカル月次決算業務の構成要素への分類を行います。
【ローカル月次決算の構成要素Part1】
①外的要因(得意先、仕入先、外注業者、監査法人、会計事務所など)
②内的要因(販売部門、製造部門、管理部門など)
まずは登場人物を記載しました。多くの場合には、これらの登場人物(の対応)によって月次決算が遅延しているのでまずはここからの確認です。それでも月次決算の早期化のボトルネックが見つからない場合には、次の確認へと移ります。
【ローカル月次決算の構成要素Part2】
①業務フローのゆがみ(承認ルートのゆがみ、人材連携のゆがみ、スケジューリングのゆがみ、など)
②業務フローの無駄(二重管理帳票、管理会計資料と財務会計資料の不整合、意味のない承認ルート、など)
親会社はこれらをヒアリングによってまとめ、業務フローとリスクマネジメント資料を作成することでしょう(日本で既作成のRCMなどのリスクコントロール資料を海外子会社用にリバイスすることが多い)。そしてその中で具体的なボトルネック(コントロールエラー)を認識します。
【ボトルネック】
㋐駐在員などの日本人に問題がある場合
㋑各種スタッフなどのローカル人材に問題がある場合
㋒業務フローなど現在の仕組に問題がある場合
㋓ローカル会計事務所の実力に問題がある場合
ボトルネックは、これらの点に集約されることが多いので、もしこのようなことが顕在化した場合にどうするかを、具体的な対応を事前に検討しておくことが重要です。
※追記:国によってはローカル会計事務所を利用している限り日本本社が求める月次期限に間に合わないという事情も見受けられます。月次決算早期を達成させる一番のポイントは自計化から始めることが必要です。
【対応ポイント】
駐在員などの日本人に問題がある場合:
事業部門や営業部門からの出向となる駐在員が多いため、管理部門業務は苦手な方が多い。そのため海外出向前に、日本本社で研修させるなど管理部門業務に馴染ませておくことが重要です。
各種スタッフなどのローカル人材に問題がある場合:
教育よりも入れ替えを重要視。スタッフは直ぐに辞めていきます。海外だとこれが顕著です。幹部候補の日本への逆出向(日本での研修)を含めて教育を考える会社も多いですが、経験を積んだ人材は更に自分の価値を上げて競合企業にホッピングします。
業務フローなど現在の仕組に問題がある場合:
現地Managerは「我が国の慣行として(遅れるのは)仕方ない」と口を合わせて言ってきます。それを鵜呑みにすると上手くいきません。日本本社のスタンスは常にあるべき論での対応です。具体的な業務フローを固める(仕組化する)際は、折衷案の提示を行い、落としどころを作ってあげましょう。※欧米企業はあるべき論が強すぎるので、日系企業は日本らしさを残し、競争の軸をずらす。
ここで重要なことも、以前のコラムで書いたように、もちろん「コミュニケーション」です。
※追記:上記のローカル会計事務所に問題がある場合には、「コミュニケーション」しても無駄なことが多いです。何かしらの理由をつけては「できない」とばかり言うので。
欧米企業のようにプライベートでウェットな関係を作ることが苦手な日本企業の駐在員。ここは割り切って、仕事上でウェットな関係を作る方が上手くいく印象です。給与などの報酬勝負では、欧米企業には勝てません。
もちろん仕事上でのウェットな関係を求めている現地Managerは少なからず存在します。欧米企業との真似をすると上手くいかないことも多いので、日本企業の良さを発揮しましょう。そのためにも、海外子会社をどのように育てていきたいか、彼らがどのような未来を見られるか、会社の将来や理念の教育は非常に重要です。
海外子会社管理をなぜ行うか、何のために行うのかをしっかりと現地Manageと合意形成をとった上で進めてもらえればと思います。
長くなってしまったので、親会社への連結パッケージ作成業務の早期化については、また改めて執筆します。まずは決算早期化を行うための構成要素をしっかりと確認して、ボトルネックを見つけることから始めてください。その際に、現地Managerが抵抗勢力とならないようなコミュニケーションがとても重要です。