皆様こんにちは。JGAの坂田です。
今回で海外子会社管理方式の概要を見ていくのは最後となります。今回は買収(M&A)でグループ会社となった海外の会社に、その買収会社の子会社(本社から見ると孫会社)を管理させる「買収会社活用方式」の紹介となります。
これまでの「海外事業部管理方式」、「事業部門管理方式」、「地域統括会社管理方式」という組織体系の発展は、海外子会社の数が増えてビジネスが拡大するにつれて、それに対応する組織体制を組むという意味で、会社の成長曲線の中で連続性のある進化の仕方でした。これと比較すると、「買収会社活用方式」は、初手から一気に子会社・孫会社をグループの中に組み込むという意味において、少し系統の異なる方式になります。
まず、簡単に組織図の形で図示すると、以下のような形です。
M&Aにより子会社を買収し、その海外子会社をそのまま管理させる方式になります。また、図のようにシナジー効果が見込める海外子会社については管理を移管して、買収子会社の下につけるということも考えられます。各事業部で持っていた各海外子会社について、移管の是非はシナジーの有無を検討したうえでの会社の判断となります。
買収子会社はその所在国・地域においてこれまで経営してきたノウハウがあるので、その財産を活用できることが最大のメリットです。これまでの「海外事業部管理方式」から「地域統括会社管理方式」までは、自前でそのノウハウを蓄積していかなければならず、多大な労力を要する方式でした。
なお、買収会社活用方式による海外子会社管理成功の是非は、買収対象会社のグループのガバナンスが有効に機能していることが前提条件となります。
では、買収会社活用方式ではどのようなコミュニケーションエラーが問題になるでしょうか。
【コミュニケーションエラーの内容】
放置によるコミュニケーションの欠落 日本本社 VS 買収子会社
海外でビジネスを行っていくにあたって、買収子会社はいわば「即戦力」なので、「放置」してしまいがちというのが、買収会社活用方式で起こるコミュニケーションエラーとしては一番大きなものとなります。
これは実情として多くの日系企業が陥っている状況ではないでしょうか。
巨額債務や各種問題が突然顕在化して混乱に陥るということがよくあります。
その原因は、買収時のデューデリジェンスや買収後統合(Post-Merger Integration: PMI)が機能しなかったことにあります。
ときどき、海外子会社の巨大なリスクが顕在化して、連結グループで特別損失を数千億円計上した、といったニュースを耳にすることがあります。リスクをとって「清濁併せ吞む」のが海外子会社管理の性質ですが、許容できないリスクが潜んでいないかより慎重な検討が必要です。
このような「マイナス」を防ぐという意味だけでなく、シナジー効果を十分に発揮して利益を最大化する(換言すると、機会費用・損失を最小化する)ことを目指す=「プラス」を追求する意味でも、グループ構成会社の役割や関係性を明確にしてコミュニケーションを続けていくことはやはり重要です。
これまでの4回で見てきたコミュニケーションエラーを総括すると、「管理しすぎによる失敗」と「放置しすぎによる失敗」の2類型に分けられそうです。
どこまでは徹底した管理が必要で、どこまでは権限を委譲し任せられるのか。そのバランスを十分に考慮した組織・仕組みを構築していくことが、コミュニケーションエラーを防止して効果的な海外子会社管理を行っていくうえでの要諦といえるでしょう。
4回にわたって海外子会社管理方式についての紹介を行ってきましたが、いかがでしたでしょうか。形式論が続きましたので少し堅苦しい内容だったかもしれませんが、次回のコラムからは、ガバナンスの話に移っていきます。リスクマネジメントの目的や手法など、より具体的な話になっていきます。どうぞお楽しみに!