タイへ進出する場合の形態として主に考えらえる方法は下記3点です。
- 現地法人を設立する。
- 駐在員事務所を設立する。
- 支店を設立する。
駐在員事務所は収益を得ることが禁じられている、支店はあくまで在外企業の一部でありタイ法人ではないなど様々な理由から、最も一般的な方法は現地法人の設立です。
今回のブログでは現地法人を設立する場合の手続きやよく見られる課題についてご説明します。
【現地法人設立の流れ】
1. 法人概要決定
2. 法人名予約
3. オフィス住所決定
4. 商務省事業開発局(DBD)へ登記申請
5. 法人口座開設
6. 資本金送金
7. 社会保険(SSO)登録
8. タイ人スタッフ雇用
9. 駐在員VISA、WP申請
10. 歳入局VAT登録
11. 歳入局e-Filing登録
【現地法人設立の流れ】
タイでの法人設立は主に下記の流れになります。
それぞれの手続きは場合によって前後する可能性があり、また細かい手続きはタイ当局によって頻繁に変更される点ご留意下さい。
1. 法人概要決定
まずはどのような事業を行なうためにタイに進出するのか、資本金額はいくらにするのか、取締役には誰が就任するのかなど、社内方針を決めなくてはなりません。
2024年8月現在、タイで法人を設立するためには株主が最低2名(自然人、法人共に可)、取締役(自然人のみ、国籍不問)が最低1名必要とされています。
社内方針の決定にどのくらい時間が掛かるかは完全にケースバイケースですが、タイには外国人事業法という外資規制を定めた法律があり、計画している事業内容次第では株主構成などに制約が発生します(外資規制についてはこちらの記事をご参照ください)。
2. 法人名予約
タイで法人設立を申請するに当たり、予め社名をタイ商務省事業開発局(以下DBD)に予約します。(特に同業種で)類似の名称が既に使用されている場合などは、希望していた社名の予約が認められないケースもあり、その場合には別の名前を予約します。
3. オフィス住所決定
法人設立前に予めオフィスを決定しておく必要があります。これは、設立申請書類にオフィス住所も記載する必要があるためです。
現地法人設立前であるため、現地法人名義でオフィスを借りることは出来ませんが、通常は日本の本社名義、または社員の代表の方名義でオフィスオーナーと予備契約を結んでおくことが一般的です。この予備契約の際にはデポジットの払い込みを求められるケースが一般的です。
オフィスについて
「知り合いのタイ人が持っている戸建てをオフィスとして安く借りる予定です」
「協業先が借りているオフィスの住所をとりあえず貸してもらいます」
などのお話を時々伺います。しかし戸建てなどオフィスビル以外のオーナーの場合、法人設立のためにオーナーから提出して貰う書類に関する知識が無かったりして法人設立がスムーズに進まなくなることがあります。また、オフィスを又借りすることは法令上可能ではありますが、大元のオーナーの了解が得られていないと後日問題となる可能性が高いです。
一般的なレンタルオフィスを借りる場合であればオーナーにも知見があるため、比較的スムーズに法人設立を進められることが多いと考えますが、それ以外のケースでは注意が必要です。
4. 商務省事業開発局(DBD)へ登記申請
申請書類及び必要な添付書類を作成し、所轄のDBDへ申請を行ないます。
これらの書類はほぼ全てタイ語であり、作成に知見も必要であるため、タイにこれから進出する企業が独自に準備することはあまり現実的ではないと言えます。
そのため、現地の法律事務所やコンサルティング会社のサポートを受けることが一般的です。
法人の場合、一般的には申請が受け付けられてから1~2営業日で設立が認められます。
5. 法人口座開設
現地法人を設立したら法人口座を開設します。
銀行や開設する銀行側の支店によって対応が異なりますが、口座開設にはかなり時間が掛かることもあります。そのため、タイ進出を計画している段階から銀行側に相談し、必要書類などを出来る限り事前に準備しておくことが重要です。
また、タイで法人口座を開設する際、ネットバンキング登録も併せて銀行に申請することをお奨め致します。ネットバンキング登録を行なうと銀行の窓口に行かずオンラインで送金などの手続きを行なうことが出来るようになります。
6. 資本金送金
法人口座開設が完了したら株主から資本金を送金します。タイ国外からの送金には時間が掛かるケースもあるため、銀行側に事前に確認しておくことをお奨め致します。
なお、タイの資本金には登録資本金(DBDに届け出ている資本金額)と払込資本金(実際に株主から払い込まれている資本金額)があり、設立直後の払込資本金は最低でも登録資本金の25%以上とされています。
また、登録資本金が500万THB以上の場合、法人登記から15日以内に法人口座の残高証明書をDBDに対し提出する必要があります。
7. 社会保険(SSO)登録
従業員を雇用するためにはタイの社会保険(SSO)に法人を登録する必要があります。なお、SSOは従業員全員が加入することが義務付けられていますが、取締役は加入の義務はありません。
社会保険料は従業員の雇用開始以降、毎月申告、納付する必要があります。SSOを登録する際は、SSOのe-Filingも同時に登録することにより、オンラインで申告が可能となります。
8. タイ人スタッフ雇用
基本的に外国人駐在員1名をタイ現地に置くためにはタイ人従業員4名の雇用が必要です。
例:外国人駐在員2名の場合には8名のタイ人雇用が必要。
タイ人スタッフを雇用するためには現地の人材紹介会社を利用する方法が一般的であり、日本語人材を中心に紹介してくれる日系企業向けの人材紹介会社などもあります。
タイでは一般的に退職まで少なくとも1ヵ月前通知が必要とされており、雇用したいタイ人従業員の前職での引継ぎなども勘案すると法人設立前から採用活動を行なっておく方がスムーズです。
ただしBOIライセンスを取得するなどしてこの1人:4人の規制が適用されないケースもあります。詳しくはこちらの記事をご参照ください。
9. 駐在員VISA、WP申請
日本人駐在員を日本本社から出す場合、一般的なVISA、WPの手続きとしては大きく下記3段階の流れになります。
- 日本のタイ大使館または総領事館でVISA(90日間滞在可能)を申請、取得してタイに入国する。
- タイにてWPを申請する。通常は1年分が発給される。
- WPの期限に合わせ、VISAを1年分まで延長する。
細かい必要資料などは頻繁に変わるものの、ネックとなるのは4名のタイ人従業員を雇用していることを証明するために③の申請時に提出する給与の源泉税申告書(書類名P.N.D.1)です。P.N.D.1は通常3ヵ月分の提出が求められるため、③のタイミングまでに3ヵ月間の雇用実績が必要となります。そのため、法人設立後すぐに外国人駐在員を配置できないことになります。
VISA担当官によっては法人設立直後の場合には3ヵ月未満の雇用実績でも③のVISA延長を受け付けてくれるケースもありますが、あくまで特例と考えられます。
なお、現地に信用できるタイ人の方が元からいて外国人駐在員を送り込まないケースも考えられるため、タイ進出を計画する段階でどのような人員配置にするか計画しておくことが大切です。
10. 歳入局VAT登録
タイの消費税に相当する税金のことをVATと呼びます。
年間売上高が180万THBを超える場合にはVAT登録を行なうことが義務付けられています。自社から支払うVAT(仕入VAT)を税控除に使用出来るようにするためにはVAT登録が完了している必要があり、早い段階で登録することをお奨めします。
11. 歳入局e-Filing登録
日本と異なり、タイでは毎月源泉税やVATの申告、納税作業が発生します。歳入局のe-Filing登録を行なうとこれらの作業を歳入局窓口ではなくオンラインで行なうことが出来るようになります。
業務効率化のためにも是非e-Filing登録を行なうことをお奨めします。