日本企業はリスクマネジメントが苦手?part1 ~CFOとリスクマネジメント~

皆様こんにちは。JGAの坂田です。

一般的に日系企業はリスクマネジメントが苦手と言われることが多いのですが、その理由は何によるのでしょうか。

前回のコラムで、リスクマネジメントは会社の経営に重要な影響を与える外部環境リスク及び内部環境リスクを識別、評価、対応し、継続的にモニタリングすることという話をしました。

これを行っていくには経営陣によるコミットメントが必須なわけですが、今回のコラムでは、本来CFO(最高財務責任者)がリスクマネジメントで果たすべき役割という視点から考えてみたいと思います。

 

少し話は飛びますが、「プロ経営者」と「サラリーマン経営者」(ここでの「経営者」は社長だけでなく、役員を含む。)の違い、みたいな議論を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。

・経営判断として社外から社長などを招聘

・会社法上、社外取締役の数に関する規制がある会社形態を選択

近年は少しずつこういった「プロ経営者」が経営に参画する事例も散見されるようになっていますが、それでも日本の会社では、主流はやはり従業員からたたき上げ・生え抜きで内部昇進によって登用される「サラリーマン経営者」ではないでしょうか。

ざっくり言うと、この違いが、リスクマネジメントが苦手と言われることと根本でつながっていると考えられます。

 

CEO, CFO, COOといった言葉もずいぶん一般的になってきました。それぞれ、Chief 〇〇 Officerで、〇〇の部分はそれぞれの所掌する分野や範囲の言葉が入ります。CFOの場合は、Financialで、日本語にすると「最高財務責任者」となります。

内部昇進ルートだと、財務部長や経理部長から経営陣に入りCFOの役職に就くルートが多いと思います。

そして、こういった会社でよくある組織図が、下図のような形です。

では、財務部長や経理部長と、(本来あるべき)CFOの違いは何でしょう。

彼らは社内で何十年も実績を残してきた会計のプロです。会計不正など、会計にまつわるリスクについては社内で誰よりも詳しいことは間違いありません。財務諸表関連に閉じたリスクであれば、リスクマネジメントで要求されることは難なくこなせるものと思います。(一般的に内部統制で求められるところと近いです。)

では、人事や法務に関するリスク、各国の環境政策の動向、商習慣の違いに起因する特有のリスク、紛争や災害のリスクなど、リスクマネジメントで扱うべきあらゆるリスクについてはどうでしょうか。

会計で長年の経験を積んできた人が、今からこれらも含めて全体を統括してみるというのは難しいのではないかと思います。

経理の延長としての役割のみを果たし、ステップアップできないままだとこれらのリスクの識別や評価は困難となります。

 

本来求められるCFOの役割は、これらの種々のリスクについても扱い、財務・経理だけではなく、研究開発、製造、営業マーケ、事業企画などの各種事業部門に対しても一定の意思決定が求められる役割です。

 

「リスクマネジメントをしっかりやっている」と自負されている会社はあるかもしれませんが、実態として多いのは以下のようなケースです。

・非常事態発生時の対応マニュアルにとどまっている

・不祥事が起きた際の広報戦略のことと思っている

・対応が機能別(会計/人事/法務etc.)、部門別(本社/工場/物流etc.)に分散している

一定の単位ごとに組織が閉じて硬直化し、横断的な取り組みを行いにくい現象を一般にタテワリ、サイロ化といいます。これらの組織的特性は悪いことばかりではありませんが、少なくとも全社的なリスクマネジメントに取り組むという文脈にあっては、マイナスにはたらく側面のほうが大きいと考えられます。

目指すべき方向性は、ERM(Enterprise Risk Management)、つまり事業体全体としてリスクマネジメントに取り組むことです。

このためには、経営陣に俯瞰的な視点と横断的な思考が必要です。

サラリーマン経営者にそれが不可能と言っているわけでは決してありませんが、あるべきリスクマネジメントを行っていくためには、今までと異なり、大所高所に立った視点が必要になることを意識する必要があるでしょう。

組織図としては、下図のような構造が想定されます。上の図と比較しながらご覧ください。

さて、FP&Aという言葉が出てきました。これはFinancial Planning & Analysisという言葉の略なのですが、次のコラムではこの概念の紹介と諸外国の例について紹介したいと思います。

次回のコラムもどうぞお楽しみに!